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もともとプチピュー(プチッときてピューと出血すると言う意味らしい)と言われるぐらいに切れやすい私だったが、さすがに50を4年も越すと多少は穏やかになっていた。少なくともそのつもりだった。しかしその四角い奴の並び掛けに頭の中はホワイトアウト。どうすれば後ろと言うか横の四角いのと喧嘩できるかしか考えられなかった。しかしこっちから仕掛けるのは面白くないので四角から仕掛けさせたい。
私は横に並び掛けた四角に気付かぬ振りをして左折時に右に振るようにして幅寄せし左に回頭した。すると危険を察知した四角は急ブレーキを踏む。四輪駆動車のタイヤは幅が広くてハイトが高い。急ブレーキによって相当に大きなスキッド音を立てた。待ってました。真横で大きな音に驚いた振りの私はマックス最大ボリュームで
「横で何さらしとんじゃ!」
と叫びながら社名の入った開襟シャツのボタンの千切れるのも構わずに脱ぎ捨てTシャツ一丁になり
「やんのか、ガキャぁぁ!!!!」
とアルエコから飛び降りベンツの前に立ちはだかった。
「あんたが右に膨れたしブレーキ踏んだだけやんけ!」
と窓から叫ぶ四角。
‐勝った!あんたっちゅーとるわ。ビビッとんな、こいつ!‐
私はほくそ笑んだ。と、その瞬間四角いのから身長は180センチ以上(対して私は169センチ)はあるかと思えるほどの若い、年の頃は35歳ぐらいで1センチ以上の巾のペンシルストライプのスーツをいなせに着こなす、EXILEのアツシみたいな男が降りて来た。その瞬間、私はトランス状態から一気に覚めた頭の中で明日の朝刊に殴られて死亡した私の記事を想像した。しかしここで引いては余りに情け無さ過ぎる。老妻も助手席で震えながら見守っているはずと思い、失禁覚悟で「やんのか、やらへんのかはっきりせいや!」と言いたかったが口の中が乾いて舌が上顎にくっついて喋れない。アドレナリンは脊椎からドクドク溢れだし、腰が痛くなってきた。
中学生の頃、どこかの知らない中学性と宇治の商店街で喧嘩になったことがある。その瞬間が鮮やかに蘇る。顔を殴られて強烈に酸っぱい味が体中に広がり鼻から血が止めどなく溢れだす。涙もこんなに出るものかと思うほど出た。鼻血も涙も止まらない。悲しい時と痛い時の涙の出方が違う事を知った。しかしその時は腕が折れてもいいと思いながら鼻血と涙だらけになりながら振り廻した腕が相手の、偶然に左耳の上の側頭部に当たり相手が倒れた。その瞬間に一緒にいた友達が「逃げよ!」と私の手を引っ張り走り出した。こいつのお陰で喧嘩になったのに何にもせんと逃げるんか!と思ったが言わないでいた。
何故なら逃げる方が絶対に得であると顔面が血だらけでも理解出来た。鼻は血で詰まって呼吸などできない。口で息を吸っても鼻血が入って来る。とても走れない。しかし相手の先輩か年上の高校生とかが単車で追いかけて来るんじゃないかと恐くて怖くて切符を買って電車を待つなんてとてもできず、宇治から線路沿いの路地から路地へ伝い走り、ほうほうの態で六地蔵まで帰り着いた時には制服のカッターシャツに着いた鼻血はカシカシに乾き茶色になっていた。
男ならだれでも一つや二つこんな経験はしている。しかしこの歳になってまたあの痛い思いをするのかと思うとやたら元気が出て来た。
私は
「○×□▲▽?♪★¶」
と、何を言ったのか憶えていない。しかしベンツから降りて来た背の高いのは
「やらへんわ!」
と言った。それだけは聞こえた。その瞬間に私はその背の高いのに心の中で手を合わせありがとうございますと連呼した。しかし喧嘩の途中でありがとうなどと言うバカもいまい。私は
「兄ちゃん、煽るのもええけどな、オカマ掘ったら謝りたおさんなんのはお前やど!えーかげんにさらしとけよ、くおらぁぁ。」
と言い、アルエコに乗ろうと振り向いたら、老妻が腕を巻くって般若のような形相で仁王立ち。「何してんの?」と私。老妻曰く、「お父さん、絶対負けると思たし私がやったらなあかん思てな!」私のする喧嘩ごときで震えて見ているような人ではなっかたことに今更ながらに気がついた。
アルエコに乗り込んだ時に気付いたが膝がガクガクしていてアクセルをゆっくり踏み込めなかった。可哀想にアルトも小刻みに震えながら進んだ。
ベンツもタイヤを鳴らして去って行った。この旧東海道の名もなき交差点で起こった余りにもバカバカしい出来事で逍遥庵主も露命を落とさずに済んだことに心から感謝し天を仰いだ。
私の人生があと如何ほどあるのかは誰にもわからない。しかし私の残りの人生において路上で知らない誰かともう二度と喧嘩はしないと蝉丸さんに誓ったのである。
これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関
逍遥庵主的解釈 行くのも帰るのも急いだところでどうにもならない逢坂山の峠道。
知らない者どうしで喧嘩せんと仲ようお行き。
今日の話はこれでお終い。
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